絵を描いている時、新たな色が画面に加わることで、それまで塗っていた色が違って見えると感じたことはありませんか。
地味だなと思っていた果物や洋服の色が、背景の色を変えることできれいに見えたり…。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
実に不思議ですね。
この記事では、色の見え方の秘密について解説します。
同時対比
突然ですが…
僕は男前と言えるでしょうか。
こう聞かれた時、あなたは無意識に誰かと比べたのではありませんか。
モデルさんや俳優さんには、確かに男前といえる人がたくさんいます。
こういう人たちと比べると、明らかにぜんぜん違う????
つまり…
誰と比べるかによって、見え方が違ってくるということです。
これは色にも同じことが言えるので、「下のグレーは明るいでしょうか」と聞いても、見る人によって意見が分かれるハズです。
判断するには、基準が必要だからです。
では、次に、さまざまな基準による、色の見え方の違いを紹介します。
明暗対比
明度対比は、背景の明度に対して、図の色が明るく見えたり、暗く見えたりする現象をいいます。
下の二枚 (図1)を見てみましょう。
右の丸も左の丸も同じ明るさのグレーですが、それぞれの背景の「白」、「黒」の影響を受けて、明るさの違うグレーに見えませんか。
白い背景には暗く感じ、黒い背景には明るく見えます。
さらに下の二枚(図2)。
(図 1)に少し明るいグレーを追加すると、真ん中にある色の見え方の違いがはっきり分かると思います(図2)。
もちろん、(図1)、(図2)ともに、真ん中のグレーはどちらも同じ色です。
色は隣の色の影響で、見え方がまったく違ってくるのです。
彩度対比
彩度対比は、中彩度の色の図を、低彩度の色の背景と、高彩度の色の背景に置いた時、図の色の見え方が異なる現象をいいます。
次の例を見てみましょう(図3)。
内側の黄色は右も左も同じ黄色ですが、グレーの背景に置いた方が、実際の色より鮮やかに見えます。
背景の色が鮮やかな色の場合、真ん中の黄色は実際の色よりくすんで見えるのです。
色相対比
色相対比とは、背景の色とその上に置かれた色を同時に見た時に、背景の色相によってその上に置かれた色が、異なって見える現象をいいます。
背景の心理補色が残像として表れることにより、その心理補色の方向へ近寄った色に見えます。
次の例を見てみましょう(図4)。
真ん中のオレンジ色は右も左も同じ色ですが、それぞれ微妙に異なって見えます。
この現象を考えるには、色相環上で考える方がわかりやすいと思います(図5)。
シュブルールの『色彩の同時対比の法則』
19世紀のフランスの王立ゴブラン織製作所の染色部門監督官であるミシェル・ウジェーヌ・シュブルールは、ゴブラン織の発色が良くないとのクレームをきっかけに、色の研究を始めました。
その結果、クレームの原因は染料や素材ではなく、織物の隣り合う色どうしの配色効果による、視覚上の問題であることを明らかにします。
やがて彼は、色彩調和の研究を発展させ、『色彩の同時対比の法則』をまとめるのです。
彼の著作は、印象派の画家たちの「色彩のバイブル」として支持を集めました。
スーラ、ドラクロワ、ピサロ、モネの作画に活かされたと言われています。
明るさの恒常性
大阪府富田林市の寺内町の風景です。
ここは江戸時代の街並みが、今もほぼ当時のまま残っていることで知られています。
ここへ教室でスケッチにでかけました。
下絵が出来て色を塗り始めると、明暗にだまされてしまう方がでてきます。
図6で光が当たっているのは〈A〉の壁、〈C〉の屋根です。
〈A〉と〈B〉は同じ漆喰の壁なので、明暗の違いは分かりやすいですよね。
光の当たっている〈C〉の屋根と、陰になっている〈B〉の壁を比べても〈C〉の方が暗く見えます。
これは見たまま素直に描けば、だいたいこの通りの絵になります。
では、次のような場合はどうでしょうか。
その後ろの〈B〉の屋根は本来濃いグレーですが、光を受けて〈A〉の壁より明るく見えています(図7)。
こういうケースでは、屋根は濃いグレーで、「白い壁」は「白」だと思い込んでいると失敗します。
しかし、屋根は壁よりも暗く描いてしまうんです。
なぜ、そうしてしまうのでしょうか。
これを「明るさの恒常性」といいます。
絵を描く時は、素直な目で見て判断しなければなりません。
プルキニエ現象
絵を描いていて、夕方になってくると、色の見え方が変わってきます。
そんなことを感じた経験はありませんか。
特に青系統の色が明るく見え、赤系統の色が暗く見えてくるのです。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。
人間の眼の視細胞には、錐体(すいたい)と桿体(かんたい)と呼ばれる細胞があります。
光が射すにつれて薄暗い状態になると、錐体と桿体の両方がはたらきます。
これを薄明視といいます。
光が強くなり、錐体のみがはたらく状態を明所視といいます。
夕方、あたりが暗くなると、明所視から薄明視をへて暗所視へと推移します。
これにともなって、錐体の最高感度域から桿体の最高感度域へと最高感度が移動します。
すると、明るい場所で明るく見えていた赤は暗く見え、暗く見えていた青い色が明るく見えるようになるのです。
この人間の眼の生理的な現象は生理学者「プルキ二エ」によって発見されました。
彼の名前から、「プルキニエ現象」と呼ばれ、感度が移行することを「プルキニエシフト」といいます。
余談
牛乳パックが青いのは、〈青〉の補色残像現象が考慮されているからです。
有彩色を凝視した場合、必ず最初に見た色の心理補色が残像として現れます。
これを補色残像現象といいます。
〈青〉の心理補色としての〈黄〉が、白い牛乳を濃厚なクリーム色に見せることを狙っているためです。
最近は赤い牛乳パックもありますが…。
参考図書
最後に
絵が上手くいかない時、気になるところばかりを描いてしまいますが、そんな時はその周りの色を変えてみるとよいでしょう。
背景の色を変えるだけで、モチーフや人物の見え方が、がらりと変わって見えることがありますから。
遠近法、色彩、人体、構図などの講座ブログは、「絵画講座 / インデックス」として、まとめてありますので、ご活用いただければ幸いです。
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