ルネサンスは、14~16世紀にイタリアと北方フランドル地方で興り、ギリシャ・ローマの古典様式を再生しようとする芸術運動を指します。
「再生、復興」を意味するルネサンスは、ジョルジョ・ヴァザーリが1555年に発表した「美術家列伝」の中で用いた「rinascita(再生)」という言葉が、19世紀にジュール・ミシュレによってフランス語化されたものです。
イタリアン・ルネサンス
建築では消失点の発見者、フィリッポ・ブルネレスキによる「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」の大ドーム、絵画ではジョット・ディ・ボンド―ネ「スクロヴェーニ礼拝堂」のフレスコ画、「聖母マリアとキリストの生涯」などがその始まりだと考えられています。
その後、彫刻ではドナテルロ、絵画ではボッティチェッリ、フランチェスカらが、科学的精神に基づく写実的表現を追求しました。
線遠近法や空気遠近法が発明されたのもこの時期です。
また、人体解剖や、明暗対比による人体の立体的表現が追求されています。
これら15世紀中頃の芸術家の活動を、初期ルネサンスと呼びます。
15世紀後半から16世紀前半に入ると、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ・ブオナローティ、ラファエロ・サンティらの三大巨匠によって、この写実主義は一層高められます。
その代表作として、レオナルドの「最後の晩餐」、ミケランジェロによるシスティーナ礼拝堂の「天地創造」、ラファエロの「アテナイの学堂」があります。
この時期を、盛期ルネサンスと呼びます。
16世紀には、ティッツィアーノ・ヴェチェッリの「聖母の被昇天」や、パオロ・ヴェロネーゼの「レヴィ家の饗宴」などの油彩作品が、ルネサンス絵画を華麗に彩りました。
北方ルネサンス
イタリアでルネサンスが興ったころ、アルプス以北では画家のファン・エイク兄弟が、「ゲントの祭壇画」、ヒエロニムス・ボスが「快楽の園」などを発表し、独自の中世芸術を完成していました。
特にヤン・ファン・エイクによる「アルノルフィーニ夫妻の肖像」は、二次元の世界に三次元の空間を表すという革新をもたらしました。
油彩技法の完成は、彼ら兄弟によるものと言われています。
15世紀末になると、デューラーを始めとして、画家や建築家たちがイタリアに訪れるようになり、両者の交流は盛んになっていきます。
イタリアで興ったルネサンスは、16世紀になるとフランドルを中心に北ヨーロッパに広まり、北方ルネサンスは開花するのです。
ドイツでは、アルブレヒト・デューラーを始めとして、ルーカス・クラナッハ、ハンス・ホルバインらの画家たちが現れドイツ・ルネサンスという時代を迎えます。
なかでもデューラーは、北方ルネサンス最大の画家といわれました。
イタリアの画家の影響を受けながらも、独自の表現を確立し、「アダムとエヴァ」、「野うさぎ」、写実に劣らない緻密さで表した銅版画など、多数の傑作を残しています。
銅版画の作品には、「騎士と死と悪魔」、「書斎の聖ヒエロニムス」などがあります。
同時代のグリューネヴァルトは「イーゼンハイム祭壇画」を制作。
さらに、クラナッハの描く「アダムとイヴ」や「ヴィーナス」の裸婦像は、イタリアのジョルジョーネやティツィアーノの裸婦像とは異なる人間的なリアリティがあります。
後期ルネサンス 「マニエリスム」
マニエリスムは、盛期ルネサンスから、バロックへの移行期に当たり、イタリア語のマニエラ (Maniera)に由来します。
マニエラは、中世の騎士道における作法です。
作法は完璧で美しい動作を生み出しますが、時に退屈でマンネリなものとなります。
マニエリスムにもこの両面があるのです。
つまり、自然に倣うという考えではなく、巨匠たちの様式(マニエラ)を規範とする否定的な見方と、芸術の目的は自然の再現ではなく、もっと高度に知的な作業であるとするという肯定的な見方です。
芸術の目的はイデアを表すことだと考え、そこに到達した巨匠から技を学ぼうとした、とする後者の見方が現在の主流です。
イデアとは、目に見えるものの奥にある、見えない心理のことです。
マニエリスムの特徴として、極端に引き伸ばされた人体、歪んだ構図、強い色彩などが挙げられるでしょう。
これは、巨匠たちの作品を規範とし、様式化、誇張することが理想とされたことによります。
特に、ミケランジェロによる「最後の審判」は、当時の画家たちに多大な影響を与えました。
この時代の画家に、ポントルモ、ブロンズィーノ、エル・グレコ、アルチンボルドらがいます。
最後に
透視図法を発見し発展させたのはルネサンスの芸術家ですが、その後さらに発展させるのは数学者です。
当時の透視図法は一点透視図法しかなく、今日の体系化された透視図法が確立されたのは、18世紀中頃だと言われています。
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