長方形の構図線
17世紀のオランダ絵画の巨匠、フェルメールの「天文学者」について、構図の解析をしてみたいと思います。
構図線にもいくつかありますが、今回は巨匠たちの作品に最もよく見られる「長方形の構図線」を紹介します。
この方法を一つ知っておくだけでも、安定した構図の作品が作れます。
以下の手順で、構図線を引きます。
まず、対角線を引きます(図1)。
対角線は全ての線を引く足掛かりになります。
対角線の交点を通る、水平、垂直な線を引きます (図2)。
各辺の中心から、図3のようにコーナーに向かって、斜線を引きます。
図3で引いた線分と図1で引いた対角線との交点に、水平、垂直な線を引くと3分の1の分割線を得ることができます (図4)。
各辺の中点を結びます (図5)。
図5で引いた線分と図1で引いた対角線との交点に、水平、垂直な線を引けば、4分の1の分割線が得られます (図6)。
かなり複雑になりましたが、長方形の構図を考える時、この構図線が一般的です。
では、フェルメールの「天文学者」にどのように使われているのか見てみましょう。
フェルメール『天文学者』の構図解析
長方形の構図線をフェルメールの「天文学者」に重ねると、いくつかの構図線が絵の中のポイントと、響きあうことが分かります。
構図を考える時、すべての構図線を使う必要はありません。
対角線
左目は対角線上です。
この決め方は、当時の流行りのようなものだったらしい。
窓枠、右手、椅子の桟が、対角線の傾きと響きあいながら、ほぼ一直線上に並んでいます。
二分割線
水平
窓枠、地球儀の赤道、天文学者の右腕、壁にかかった額を通っています。
垂直
物置?にかかった地図、天文学者の左手を通っています。
交点
二分割線と三分割線の交点に、左手があります。
三分割線
水平
テーブルの水平面に一致しています。
天文学者の頭の位置は三分割線上に位置し、体の傾きは三分割線を作り出す斜線に響きあっています。
折り返ったテ-ブルクロスの斜めの線は、三分割線を作りだす斜線上にぴったり重なります。
この延長線は、天文学者の左腕の上腕につながっていきます。
四分割線
水平
地図、絵画、窓に重なって画面の端にほんの少し見えている部分、これらは四分割線上に並んでいます。
六分割線
収納の上に本が並んでいますが、この傾きが気になりませんか。
窓枠の位置も探ってみたくなります。
そこで画面をさらに上下、左右2つに分けて構図線を引き、それぞれの位置をさぐってみます(図7 点線)。
画面上半分で同様の構図線を引くと、並んだ本が作る傾斜は、三分割を作る斜線の傾きと一致します。
これは、全体では六分の一にあたります。
物置の天板の位置も、全体の六分の一の位置に重なります。
八分割線
窓枠の位置はどうでしょうか。
画面の左半分で同様に構図線を考えると、四分の一の位置の窓枠が描かれているのが分かります。
これは、全体では八分の一にあたります。
おすすめ本
~ 古典に学ぶリアリズム絵画の構図と色 ~
ここに示した構図法以外の構図法の他に、模写や画家について紹介されており、オールカラーで画集としても楽しめます。
ゴッホ「夜のカフェテラス」の構図解析について
情熱の画家と言われるゴッホですが、構図や色彩については実に理論的に描かれています。
構図に興味のある方は、次の記事もあわせてご覧ください。
映画紹介「真珠の耳飾りの少女」
フェルメールと言えば、「真珠の耳飾りの少女」を思い出す方も多いのではないでしょうか。
この油彩作品はもともと「青いターバンの少女」などと呼ばれていましたが、映画のタイトルにもなった「真珠の耳飾りの少女」がヒットしたことで、このタイトルが一般化しました。
この映画は、フェルメールの世界観を損なうことなく忠実に再現されていて、どのシーンを切り取っても絵画的で、フェルメールの作品そのもののようです。
当時の時代背景を知る一本でもあります。
最後に
フェルメールがこの構図線を使ったかどうかは分りませんが、構図線と一致するポイントが驚くほどたくさん見受けられます。
これは単なる偶然ではないはずです。
さらに解析をすれば、他の物の位置と構図線の関係を見つけられます。
長方形の構図線に当てはまる作品は他にもたくさんあります。
ぜひ、あなたも名画の構図解析に、挑戦してみてください。
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